北欧産のものと思われるビールを飲みながらつまみにとして一緒に買ったハムとサーモンのサンドイッチを食べていて少し余裕が出てきたボクは、カフェを行きかう人々を見ながら「こんな時期に船に乗っている人達ってどこの国の人なんだろう?」と想像力を膨らましながら行きかう人々や側にいる人達の話し声に耳をそばだてていました。
でも聞こえてくるのはこれまでに聞いた事も無いような訳の分からない音の言語で、前日までいたモスクワで聞いていたロシア語に聞こえなくも無いし、フィンランドから出ている訳だからフィンランド人ならフィンランド語だし、でも観光に行くような時期でもないからエストニア人なのかな、とすればエストニア語だよなー、等と考えながら、しかし全然分からない言語を話す人々がいる空間の中にぽつんと恐らく一人だけと思われるエストニアに向う船に乗っているアジア人である自分の存在を考えると意味もなくなぜだかワクワクしているボクでした。
船に乗っている人を見ていると意外と未成年の若い子達も多いのに気が付き、家族と一緒なのか、何かの行事なのか、とにかく忙しそうに動き回っている疲れ知らずの若い子や小さな子供達はどこでも元気よく、キャピキャピはしゃいでいる子等を見ているだけで愉快な気分に浸るボクでした。周りにある全ての非現実的な光景を見るたびに何だか映画でも見ている気分で、そしてその中に正にボクがいる訳で、ただそれだけで楽しい気分でした。
さて、ビールも飲み終わり、一息ついたので暇そうにしている人に声でも掛けようか、、、などと大それた事は当時のボクの英語力では大変勇気のいる事で、楽しそうに話している若い子やカワイイ女の子を見ると「あー声かけて話がしてみたいナー、、」などと一人胸が熱くなっているボクでしたが、果たして彼らは英語と言う物を理解する人達なのだろうか?
という根本的な疑問と、フィンランドのタクシーのドライバーとのやり取りを思い出したひとりぽっちのボクは急に臆病風に吹かれ、お店などにいる人なら外人の相手をする訳だから英語くらい出来るよな?と思いつつも、相手が出来てもボクのほうがね、、、とクヨクヨしながら、そんな気分を変えようと屋外のデッキに出て寒い夜風にあたってみることにしました。
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船に乗ってからそれ程経っていないように感じていましたが、楽しい時間は直ぐに過ぎ去っていってしまうようで、船が向っている暗闇の中に薄ぼんやりと街明かりが見えているに気が付くと、「あれ?!あれはもしかしてエストニアか?ということですっかり浮かれていた為エストニアに刻一刻と近づきつつある事に気が付いたボクは、「あれがエストニアなのか、やっと来たなー彼らの国に、今あの明かりの下ではどんな人達が暮らしているんだろうな?」
等と想像しながらいつまでも見ていたかった気分でしたが、冬の寒い風を切りながら進んでいく船の屋外に防寒着なしで耐えられるはずもなく寒さでたちまち痛くなった耳をさすりながら船内に入ると「おー、トロピカル、やっぱり暖かいのはいいなー」と思ったと同時に、もしこの船に事故があって沈んでしまったりしたら、、と昔テレビか何かで見た真冬の惨劇が脳裏を横切りながら寒さや冷たさが苦手なボクにはそんな想像をしたくもなくこのまま何事もなく無事にエストニアに着くこと祈りました。
船内に入ると先程までのんびりと流れていた雰囲気が少し変わり、恐らく旅なれている人たちなのでしょう、もう直ぐエストニアに到着すると言う事に気が付いた人達が到着に備えて身支度を始める人を見て、それにつられるように周りも動き出している感じでした。その時はボクも既にのんきに人に話しかけよう等との思いはどこかへ行ってしまっていて、行く先もまだ決まっていないボクは、この船に乗っている人はきっと行く先は決まっているんだろうね。
家に帰る人もいるだろうし、ホテルに行く人もあるだろうし、それを思うとボクはちょっと不安でした。何しろエストニアの人達とは92年に会って以来直接電話等で話した訳ではないし、手紙はでのやり取りはしていたものの、何とも未熟な当時のボクの英語力でしたから、「本当にボクが今日エストニアに来るって知っているのかな、、、」と確かめられない状況が不安に拍車を掛けていました。
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人々の動きが一段と慌ただしくなってくると、「さぁーいよいよ到着だ」と思いながら船のデッキに再度出て、刻々と大きくなってくるエストニアの街タリンを眺めていました。天気は少し曇りで東京の真冬ぐらいの寒さだったような気がします。夜の暗闇に浮かび上がってくるエストニアの大地の左の方に見える塔やマンションのような幾つかのビルと右の方に見える恐らく旧市街と思われる教会や古い建物の特徴的なとがった屋根がはっきりと見えてきました。
近づきつつある遠くにある明かりを眺めながら、「あの明かりの下にはまだ見ぬ人々の暮らしがある、、、どんな暮らしなのだろうか、、、どんな世界が広がっているのだろうか、、、」等と考えながら、日本と比べて圧倒的に薄暗く、又数が少ない明かりを眺めながらだんだん現実となりつつあるエストニアという未知なる国への到着に思いを寄せていました。
とにかくフィンランドへの飛行機の到着時間は伝えていたので、それに繋がるエストニアの船は一つだけなので連絡を取っていたマレ(エストニア人の友人)か誰かが来てくれているだろうと期待して、その再会の状況を想像して胸を躍らせながら「その他にも来てくれているかな?でももう遅い時間だし無理かなー」と、勝手な想像をしていました。
当時のエストニアとフィンランドの冬の時期の時差は無く時間を変えることも無くエストニアに到着しました。詳しい時間等は日記にも書いてなく、もちろん今となっては覚えている訳でもなく、とっておいてあると思うチケットが手元に無いので定かではないのですが、モスクワを夕方出発してからの乗り継ぎなので、エストニアには大体夜中の12時ごろの到着だったと思います。
ボクは人々が到着の準備がひと段落付いた辺りで、荷物を取りに無料の荷物置き場(到着まで鍵が掛けられた専用の部屋)に荷物をとりに行きジャンパーを羽織ったボクはふと周りを見ると、かなりしっかりした防寒着を着ている人も多く、10月で既にこの寒さなのにボクが持ってきていた唯一のジャンパーは日本の冬に着ていた普通の物、こんな普通の布のジャンパーで絶えられるのだろうか?と多少不安を覚えつつもほろ酔い気分で一人到着の準備をするボクでした。
つづく エストニアとの出会い続編 「いよいよ到着」
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